不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

僕と先輩のマジカルライフ/はやみねかおる

僕と先輩のマジカル・ライフ

僕と先輩のマジカル・ライフ

 何も考えずに楽しめる、はやみねかおるらしい一作である。
 変な奴しか出て来ないが、空気がとぼけていていい感じだ。

 本格ミステリとしては、いつものはやみねかおるらしく、マニアックになることなく、誰にとってもわかりやすい、始原的な〈ミステリの愉悦〉を伝えてくれる。この首尾一貫した姿勢は賞賛されるべきだろう。むろん、マニアックな本格も素晴らしいのだが。
 個人的には、社会人の哀しさと、それに無感覚な主人公の心情描写にいてもたってもいられなくなる、「河童」が一押しだ。このように学生は自分の置かれた境遇の圧倒的なまでの輝きと素晴らしさに気付かず、流されるままに、しがらみと理不尽に溢れ返る《実社会》という名の地獄に堕ちて行くのだ。そしてこのような視点を見事に打ち出せる作家は、作風がいかに平易に見えても、やはり視座は高いのだと思う。
 もちろん、まだ学生の人々にはこんなこと言っても無駄なのだろう。
 全ての夢と希望を失い、ただただ趣味や生甲斐だけが、精神的な生命維持装置に化ける状況など、陥ってみなければわかるまい。