不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

三角館の恐怖/江戸川乱歩

考えてみると、普通に翻訳するよりも、舞台も人物も日本の東京に持って来て、我々の身辺の怪事件として書いた方が一そう面白いのではないかと考えるようになった。

 とまあ、オリジナルが書けなくなった事実を糊塗して始まる、翻案小説。ネタ元のロジャー・スカーレット『エンジェル家の殺人』は、楽しく読んだと記憶する。『三角館の恐怖』も、なかなか楽しめた。動機とか面白いよね。

 ただし、同じ曲を様々な演奏家で楽しむ趣味を持つ人間としては、作品の総体的な感触が『エンジェル家の殺人』とそれほど変わらないのは残念である。あるいは、クラシック音楽における演奏者の違いみたいなのを実現するためには、『空飛ぶ馬』を船戸与一に書かせる強烈さが必要なのかもしれない。