不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

殺意のシナリオ/J・F・バーディン

殺意のシナリオ (SHOGAKUKAN MYSTERY)

殺意のシナリオ (SHOGAKUKAN MYSTERY)

 この作家初体験。つまり『悪魔に食われろ青尾蝿』は読んでいないということだ。よってバーディンを語る資格は、謙遜でもなんでもなく、あり得ようはずもない。しかし『殺意のシナリオ』に感想を抱き、いくらネット上とはいえとどのつもりは日記であるサイトに、それを書き込んでも誰も文句は言うまい。

 上質のサスペンスが楽しかった。過去数日の行動に続いて、今日これから起こる出来事も綿密に書かれた手記を、ある朝職場の自分の机で発見してしまう主人公フィリップ。自分が精神を病んだのか、それとも誰かの策謀なのか? 恐怖と猜疑に心乱れ、徐々にフィリップの日常生活に支障が出て始める……。これだけでも読み応えがあるが、更に一歩進んだ〈売り〉がこの話にはある。それは、主人公以外の主要登場人物も、微妙に狂的な側面を見せていることだ。偏執・粘着気味な彼らの言動は、物語に花を添えている。

 それなりに衝撃的なラストも含め、サスペンス好きにお薦め。