不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

レオナルドのユダ/服部まゆみ

レオナルドのユダ

レオナルドのユダ

 偶然だろうが、『聖遺の天使』と題材がかぶっている。三雲と服部、二人の違いが一発でわかるわけで、極めて興味深い。ただ、この手の比較は一年も経てばほとんど意味を成さなくなる。よって、ここでは敢えて言及しない。やる気ある人には、読み比べるのも一興でしょう。

 この作品は、レオナルド本人ではなく、彼の周囲に集まる人々の賛嘆・尊崇がメインである。要するに、ここで描かれるのは、レオナルドにまといつく「ファン」なのだ。無論ファンといっても色々いる。単純に好感を持つ奴、盲目的に崇拝する奴、弟子になる奴、プライド高過ぎて素直に認められない奴。これら多様な、しかし基本的なファンの在りよう。そして彼ら相互の牽制、協調、衝突。服部まゆみの筆は、レオナルドを描こうとはしない。焦点はあくまで、彼のファンに当てられる。レオナルド本人からある意味乖離したところで語られるこの物語は、だからこそ、血道をあげる趣味を持つ人間にとって、奇妙に生々しく感じられることだろう。

 ミステリ面では正直つまらんが、全体としては服部まゆみらしい、一筋縄ではいかない小説となっている。広範な支持を得られるタイプの作品ではないが、服部まゆみの「ファン」なら読んでおくべきでしょう。