黒蜥蜴／江戸川乱歩

江戸川乱歩全集 第9巻 黒蜥蜴 (光文社文庫)

　『黒蜥蜴』の前に、ちょろっと「黒い虹」の感想をば。これは連作の第一回連載のようだが、個人的にはちっとも面白くなかった。登場人物が全員、次の回で消えていてもいいような展開で、他の連作者には便利だろうが、読者以前に小説を嘗めてませんかあなた。

　で、『黒蜥蜴』。
　女怪盗と名探偵の対決を描く作品。三島由紀夫の台本、美輪明弘の当り役で名を成した演劇としての方が有名かも。
　例によって活劇調であり、無駄の多さも併せ、他の作品と比べても変わり映えしない。というか、乱歩の平均的サンプルが並べられているような……。だからと言って入門に向くかというと、たぶんと言うか絶対違うしなあ。ただ、若干の新機軸は打ち立てられている。それは、犯人側の「焦り、不安」といったものを十全に表現している点だ。そしてだからこそ、黒蜥蜴が不意に明智に心惹かれるのも、何となく納得できるのである。……吊り橋効果？

　まあ色々あるわけだが、乱歩の中で特に注目に値する作品とも思えず、三島の入れ揚げた理由がどうもよくわからんのである。まさか三島ともあろうものが、女怪盗という設定に萌えただけとか、ないですよね？