不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

死者を侮るなかれ/B・テラン

死者を侮るなかれ (文春文庫)

死者を侮るなかれ (文春文庫)

 異彩を放つ長編。

 筋だけ取ればつまらない話である。登場人物たちの言動は明らかに不自然だし、そもそも彼らの目的が何だったのか見えない。筋立ても単調であり、次なる展開で読者を魅了、なんてことには全くならない。
 だが、それを跳ね飛ばして余りある文章が、ここにはある。〈情景〉というものを、かくも盛大かつ陰惨華麗に描く文章を、私は他に知らない。テランの描き出した精神風景はたいへんダークだが、同時に魅力的である。ノワールとは何か、の答えが含まれているような気もする。

 というわけで、大いに気に入った一冊。年間五指に入るとかはさすがに言いませんが。