不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

しあわせの理由/G・イーガン

しあわせの理由 (ハヤカワ文庫SF)

しあわせの理由 (ハヤカワ文庫SF)

 二連発で短編集なのに一抹の不安を感じないでもない。あと、小説雑誌なんて欧米にはほとんどないと聞いていたんだが、オーストラリアはまた別ってことですか? そうとでも考えないと、こんなに短編あるわけないような……。

 内容は相変わらず素晴らしい。『祈りの海』で示された、長編でのイーガンとはまったく違う、叙情性を前面に押し出す作風は健在で、人間の中身を直球勝負(ただし意匠はSFそのもの)で描き出そうとしており、充実感満点である。ハードSF的な観点から評価しても、瑕疵は認められない。少なくとも私には。いずれにせよ、本当にSFらしいSFであり、SFにしかあり得ない切り口をもって、人間の内面とは何か、あるいはそこに何があるのか、真摯に見詰めた作品群であると言える。

 以下余談。
 「愛撫」の元ネタである絵画を、私は知っていた。例によって、クラのCDジャケットに使われていたからだ。だからどうだ、という話ではないが、どういう絵か知っていると、感想がちょっと違ってくるというか、お前あんなカメラ目線だったのかと笑えた。