ぼくらはみんな閉じている/小川勝巳
ぼくらはみんな閉じている (新潮エンターテインメント倶楽部)
- 作者: 小川勝己
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2003/05
- メディア: 単行本
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とにかく全編、下劣というか鬼畜というか、狂気が渦を巻いているかのようだ。各編ごとのコメントに大した意味を感じないので詳細はパスするけれど、これだけは言っておきたいことを書く。
小川勝巳は確かに特異な作家であり、その狂気はノワールという枠さえ突き破っているのだが、その視線は切れ味鋭い。ちょっとしたことで人が狂う様、その微妙な、襞のような部位に、この作家はとてつもなく敏感であり、〈壊れる〉推移の描写は実にうまい。そもそもこれを小説の中で書けてしまうのだから、只者ではない。
「狂人」の描写はうまくても「狂人になる」描写ができない作家は多く、だから狂人は最初から狂人として存在してしまうか、一人の人間の中で二つの特性が対立する形で存在することになる。物語は畢竟、正常な神経と異常な神経のせめぎ合いがメインとなる。だがそもそも、正常と異常の境界線は曖昧であり、渾然一体となることも実際には多い。この渾然一体な様そのものを描ける作家は多くないわけで、小川勝巳は幸いにして、ことこの問題に関しては少数派に属するのである。
今回は短編集ということで、作者の特性はより先鋭化された形で現れる。だから、敢えて言いたい。『ぼくらはみんな閉じている』は必読の書である。……年間ベスト企画等で挙げるかどうかはまた別の話だが。
※ここで言う「狂気」は登場人物のものです。作者自身は正常のはず。