不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

グラン・ヴァカンス/飛浩隆

 ネット上に作られた仮想リゾート《数値海岸》の一区画、《夏の区界》。南欧の港町を模したこのエリアは、人間の来訪が一千年もの長きにわたり途絶え、そこの住民であるAIたちは、一千年もの間、同じ夏の一日を繰り返していた。だがその日常は、突如襲来した《蜘蛛》の大群により破られる。《夏の区界》は次々と《穴》に呑み込まれ、残すは《鉱泉ホテル》周辺だけとなる。わずかに生き残ったAIたちは、このホテルを《蜘蛛》に対する罠として機能させ、絶望に満ちた最後の抵抗を図る。

 他言は弄したくない。残酷にして美しい、本当に素晴らしい小説である。ラストは感動的でさえある。しかも情緒に偏った作品ではない。考証等は非常にしっかりとなされている。こういう作品がある限り、SFは絶対に死なないだろうし、私がSFの新作を読まなくなる、なんて事態も起こり得まい。SFセミナーに行かなかったことが悔やまれる。