不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

死ぬほどいい女 / J・トンプスン

死ぬほどいい女

死ぬほどいい女

 ノワールと言う以外ない、なんて作品を書く作家は、厳密に言えばこの人だけかもしれない。読んでいるとそんなことを思う。
 自分で思っているほど賢くもカッコよくもない男が、欲望を沸騰させ、自分勝手に突き進む物語である。人間の罪深さを細大漏らさず、しかし割とさくっと書いてしまうその簡潔さは、相変わらず、実に素晴らしい。そして、あの狂ったような結末!
 もちろんノワールをラスト云々で語るべきではない。喜劇だろうが悲劇だろうが、物語の起承転結はとりあえず一義的ではない、それがノワールだから。だが、この話に限っては、このラストもまた、非常に大きな売りにはなっているのだろう。これがためにこの作品は「問題作」になりおおせているのだし、《このミス》で上位入賞を果たせたのだから。
 というわけで、広くお薦めの一冊。