不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

被告の女性に関しては/フランシス・アイルズ

被告の女性に関しては (晶文社ミステリ)

被告の女性に関しては (晶文社ミステリ)

 アイルズ=バークリー最後の長編。
 「それほどでもない」という前評判をゲットしていたせいか、そこそこ楽しめた。自信あるのかないのか良くわからん男が、能動的に動くかに見えて結局翻弄されるといういつものパターン。同傾向のもっといい出来の作品、アイルズは書いているわけで、「これだっ」って感じが薄い。それでも、人妻との関係にアランが深入りする過程は、なかなか見事に描かれている。色恋沙汰を小説にして、人間心理をスムーズに推移させるは難しいものだが、こういう点で躓いていないのはさすがと言って良い。
 それでもやっぱ、「それほどでもない」んだよなあ。ミステリ的にはちっとも面白くないと言うか、そもそもミステリじゃないっぽいし。皮肉な視点は相変わらずと言いたいところだが、その皮肉の対象である今回の主人公=バークリー自身という構図が透けて見えるだけに、ちょっと痛くて、他の作品ほどには能天気に楽しめない。今回の「悪意」が物語の外周部からやって来るのも問題か。主人公と人妻にあんまり「悪意」が見られないのは、割と致命的かも。夫やら主人公の母かいった「悪意の発生源」をもっと克明に描いても良かったのでは?
 ま、『レイトン・コート』を楽しみに取ってるので、それに期待ってことで。