不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

最上階の殺人/アントニイ・バークリー

最上階の殺人 (Shinjusha mystery)

最上階の殺人 (Shinjusha mystery)

 むっちゃ久しぶりに読む、バークリー。こういう根性の曲がった小説に対して「耐性」が低下していた。数ヶ月小説を断っていたのは、想像以上に私の読書力を食い荒らしていたようだ。面白さはじゅうぶん感じつつ、同時に読むのが苦痛。そんな感想。
 とにかくチクチクネチネチといやらしい。その大半が、本格ミステリそのものと、それを盲目的に愛する者に向けられているのも、実にいやらしい。しかも、凄まじいのは、バークリーが本格を「わかって」いるからだ。ネタも展開も発端も、本格ミステリ的ラブコメ手法も、彼はすべてを自家薬篭中のものとしているのだ。なおかつ、すべてを揶揄のために浪費するという神業。「お前、本格知りもせずに……(怒)」という反抗を、彼は完全に封じ込めることが出来る。本格の本尊の一人に、その手の批判などできようはずもないこともまた、彼は自覚していたに違いない。この性根の腐り具合! 最高である。

 大傑作にして、必読の書。しかしながら、本格萌えには薦められない。そんな一冊であり、作家である。