深海のYrr/フランク・シェッツィング
- 作者: フランク・シェッツィング,北川和代
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2008/04/23
- メディア: 文庫
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計1500ページを超える大著である。このタイトルだと一瞬「クトゥルーもの?」と思わせるが、本作は一応SFだ(梅原克文ならサイファイと言うかも知れない)。綿密に取材に基づく海洋の知識によって、壮大な事件と国際社会の反応が手堅くリアルに描き出されている。情報量が多い割に、終始読みやすくて素晴らしい。娯楽小説としてのバランスも良く、人間描写・テーマ・プロットは、特段分厚かったり重かったりしないが味気ないわけでもない。エコ問題がかなり前面に出されており、この点では社会派小説ともいえるのだが、それが娯楽性を阻害していないのである。その匙加減は絶妙だ。問題があるとすれば、最後の最後、事態の収拾方法だろうか。これはさすがに安易過ぎた。とはいえ、リーダビリティも高く、読者は人類を襲うパニックを堪能することができるだろう。広くオススメしたい作品である。結構売れているようだが、それもむべなるかな。
なお作中では、鯨肉好きには承服できないだろう記載が散見される。まあそう感じるのは捕鯨国に生まれた人間の宿命かも知れない。