不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

フリオ・コルタサル/悪魔の涎・追い求める男

 アルゼンチンに生まれ、フランスに没した作家の、短編10編を収めている。普通小説と言い得るのは「追い求める男」のみで、他は超現実的な話が並ぶ。作家が伝えたい確固たる何かがあって、それを一本気に伝える――といったタイプの小説ではない。展開がシュールであるか否かを問わず、作家はさながらホロスコープのように作品の局面を変え、雰囲気も変え、読者を物語自体・小説自体でもって幻惑する。それを快いと感じる層には、本書は素晴らしい作品と映るだろう。なお、集中最長の「追い求める男」はちょうど真ん中に配置され、一冊の本として本書のバランスに貢献している。乱暴に言えば、その前は幻想味の強い作品が置かれ、後にはシュールな展開の作品が置かれている。
 本書は、作品ごとに、いやそれどころか作品の中でも様々に違う顔を見せたりするので、ジャンルを問わず小説を愛好する層には広く受け容れられるだろう。
 以下、各編へのコメント。覚書に近いです。

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