不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

いまひとたびの生/ロバート・シルヴァーバーグ

 生前、人の記憶と人格=魂を完全にテープに記録し、死後、パーソナと呼ばれるそれを他人の脳に移植する技術が開発され、大金持ちの間では実用化された。頭の中で死者が喋るものの、全能力全知識を自分のものにできるため、富豪たちはパーソナを活用し更なるスキルアップを図る。だが誰の魂でも移植できるわけではなく、魂を集中管理する協会の厳正な審査を経て、死者との適合性が認められた人物にしか移植許可は下りない。そんなある日、辣腕の大富豪ポール・カフマンが死亡する。新興の資産家であるローディティスは、子飼いの部下ノーイエスを差し向けて彼の魂を手に入れようと画策するが、ポールの遺産相続人にして甥のマークはライバルが強大化することを恐れてこれを妨害する。一方、マークの娘で奔放に生きるライサは、人生で初めてのパーソナ移植を試みようとしていた……。
 仏教の輪廻転生が実現したかのような世界設定のもと、ポールの魂の争奪戦を主軸に、ノーイエスと彼のパーソナの対立(そりが合ってない)、パーソナ移植を経たライサの成長などを描く。かなりサクサク進む話で、SF設定を手際よく解説してゆくとともに、涅槃の概念を盛り込むことで《死者の魂がもう一度甦る》ことの神秘性をあますところなく醸成する。パーソナが生者を乗っ取る《ディバック》という現象の存在もなかなか重要だ。またライサのパーソナの死の謎を探る段もあるなど、ミステリ要素もある。一編のSFサスペンス映画を見るように読める、とても楽しい娯楽小品といえよう。

ワールドコン

 「スチームパンク/歴史改変」にまず行ってみた。荒巻義雄高野史緒宇月原晴明永瀬唯がパネラーで司会は新戸雅章。まずこの顔触れだけでお腹いっぱい。なぜ作家は歴史改変をするのか……といったテーマだったはずなのだが、結局、理論武装しないと迫害される時代を担った自負のある荒巻氏と、好きなことを好きなようにリコンストラクションすれば良い時代にデビューした高野・宇月原両氏の創作姿勢の差、この場合はつまり世代差が際立っていたように思う。にしても荒巻氏、74歳でトーク時のあの滑舌と反応の良さは立派なものです。
 次は「SF翻訳というお仕事」。浅倉久志山岸真、嶋田洋一、海老原豊、そしてジーン・ヴァン・トロイヤーがパネラー。設問が若干抽象的でしたが、笑いあり驚愕ありの良い企画でした。トロイヤー氏の日本SF翻訳のやり方がかなり超訳過ぎなのと、そう言われた際の他のパネラーの目が泳いでいたのが可笑しかったと同時に、この日本人翻訳者4名はやっぱり大丈夫だと思った。
 続いては「ニューウェーブ/スペキュレイティブ・フィクション」で川又千秋飛浩隆のご尊顔を拝した後、飯野文彦氏のサイン会へ。OB会で貰ったらええやんという気もするが、興奮冷めやらぬ内にというのも一興。面も通ってないしね。そしてその後のラリイ・ニーヴンのサイン会は、かなりの列。本を持ち合わせず、公式プログラムにサインしてもらいました。
 夜はcatalyさん幹事の若者オフへ。この中では高齢者、という人が多い席でビールばかり飲んでおりました。規定に反していないとはいえ、こんなおっさんが顔を出して良かったのか? 話の内容はかなりがっつりした本の話で、とても楽しかったです。