不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

復讐はお好き?/カール・ハイアセン

復讐はお好き? (文春文庫)

復讐はお好き? (文春文庫)

 結婚記念旅行で乗り込んだ船上から、夫のチャズによって夜の海に突き落とされたジョーイ。ジョーイは金持ちだったが、遺産はチャズに相続されないし、その旨の遺言書があるのはチャズも知っている。ではなぜ私が殺されるの?──などと思って海を漂ううち、彼女は元捜査官だったミックという男に助けられる。ジョーイは、世間には自分が死んだと思わせたまま、兄コーベットや親友、そしてミックの助けを借りて、チャズの動機を調べ、そして意地悪な復讐を果たそうとする。
 ジョーイによる復讐を、愉快な大騒動として鮮やかに描き出す。キャラクター造形が相変らず振るっており、端役の隅々に至るまで一々が魅力的である。ジョーイに味方する側(なぜかチャズの浮気相手まで含まれたりする)は実に活き活きとしており、陰湿さを感じさせず実に楽しそうに復讐を仕組む。ただしこれには、標的となるチャズがたいへんなお間抜けかつ憎めないキャラであることも、大いに影響している。セックス狂、頭が悪い、根性もないという三拍子揃った彼のアホアホぶりは、非常に素晴らしい。また、ジョーイをチャズが殺したのではと疑う刑事カール・ロールヴァーグも、一見真面目なのだが、話の本筋とは全く脈略なくニシキヘビを2匹も飼っているという珍妙な設定が光る。
 しかしこのように個性の強い登場人物の中でも、最も印象深いのは、解説でも言及されているが、チャズの用心棒として黒幕から派遣される、毛むくじゃらの大男トゥールである。最初は頭の良くない粗暴なキャラ(よくあるタイプ)と思わせておいて、ある人物との交流を境に、徐々に優しい心を身に付けるのだ。こう言うと無駄に情緒的な小説または挿話と誤解されそうだが、終始、あっけらかんとしたユーモアに包まれて進行するので、胃にもたれるようなことは全くない。ご安心を。
 とはいえ、『復讐はお好き?』が軽いだけの小説でないこともまた事実。たとえば、本作の背景には自然保護問題があるし、夫婦や家族、愛を扱った物語でもある。各登場人物の抱く悲しさや怒りもまた、よく考えれば深刻であるし(ラストで爽やかに晴れ渡るが)、彼らの内面も、笑劇の中でではあるが、実は丹念に描き込まれており奥深い。しかしハイアセンは、読者に対するお説教モードには決して突入しない。作者は、本作を徹底的に娯楽小説として錬成しており、重い要素をそのまま重く描くことを避けている。
 というわけで、ギャグがいっぱい詰まっていて、しかも全体的に卑近な要素もかなりあるにもかかわらず、安っぽい印象が皆無な素晴らしい作品である。細部の台詞回しも一々気が利いている。軽く読んでも深く読んでも面白い、ハイアセンの新たな傑作といえよう。広くおすすめしたい。

言いがかり書評

http://www.bk1.co.jp/product/2745821/review/446965

私にとってのヒルは、あくまでダルジール警視シリーズのヒルなんです。だから、この本の情報を見たときも同じシリーズの最新作だと思ったわけです。広告のどこを見ても、ノンシリーズとは書いていないし、なによりダルジールが出てこない、とは謳っていない。なんていうか、これって目撃者が証言するとき、黙ることで「嘘をついてはいない」と強弁する姿に似ていません?

 似てません。というか、全然違います。

すくなくとも、本のどこかにダルジール警視が出ない、と書いてあったら売れ行きは絶対に落ちると思う。そこを考えて、あえて触れずにおいたとしたら、これは「未必の故意」ってえやつじゃあないか、なんて思うんですが、これって下衆の勘繰り、てえやつでしょうか、早川書房さん?

 そうですね、それは下衆の勘繰りですね。
 シリーズもので名を成した作家のノンシリーズ作品には《ノンシリーズ》である旨の断りを入れねばならないという珍説、私は初めて聞いた。しかしこれは暴論である。ちょっと考えればわかることだが、江戸川乱歩の『孤島の鬼』の帯に、明智小五郎は登場しませんなどと特筆大書しろというのだろうか。馬鹿馬鹿し過ぎる!
 そもそも、ダルジール・シリーズに属する作品であれば、粗筋や帯などに「ダルジール登場」とか「パスコー奮闘」などと現に書かれており、おまけに表紙や背に《ダルジール警視シリーズ》と書かれている。それらがないのであればノンシリーズだと考えて然るべき(少なくとも、そのように覚悟して読み始めるべき)であり、それに気付かず「これはダルジールものだ!」と思い込んだのであれば、それは単にその読者個人が注意力散漫だったからに過ぎない。出版社に責任などないことはもちろんである。
 しかし、みーちゃんは、常識のなさを棚に上げ、(読者一般や現代社会の、と詐称した)自分の身勝手な都合のみを出版社に押し付け、あまつさえ出版社を糾弾してしまう。ここまで来れば、単なる意固地なクレーマーでしかない。彼女を「ノンシリーズだと事前にわからなかったのは、お前の怠慢だろ」と問い詰めても、「あたしは悪くない、悪いのはサービス精神に欠ける出版社!」などと叫ぶばかりのはずだ。
 これまでもずっと、みーちゃんはこのような書評を垂れ流しており、出版社と作者を苛烈に責める一方、自らの読みや行動原理、思想の正当性・妥当性・説得力に全く疑念を抱かない。その根底には、彼女自身の思い込み、視野狭窄、独善性(それも強烈なの)があるように思われてならない。ただでさえ評判の悪いネット書評家*1の品位を更に汚す存在として、可及的速やかに排除されるべきであろう。

*1:ワナビ」「重鎮」「業界ゴロ」「馴れ合い」「無責任」「自意識過剰」「あんなファン、要らないよねー」「文壇雀」「舌禍の一群」等々、各地で散々な言われようだ。確信を持って間違っていると断言できないのは辛いところだが……。