不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

マザーズ・タワー/吉田親司

マザーズ・タワー (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)

マザーズ・タワー (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)

 2038年、スリランカとインドを結ぶ巨橋を拠点とする《マザーズ教団》は、その拠点において難病の子どもたちの末期を看取る事業を展開していた。しかし教団代表の葵飛巫子はこの拠点が襲撃されることを察知し、巨橋を崩壊させてしまう。巨橋崩壊当日に現場に居合わせた4人の男は、飛巫子の目的と人類が直面する危機を知り、テロにも負けず、各国政府の横槍にも負けず、軌道エレベータの建造実現に向けて動き始めた。
 厨房設定の強者たちが、厨房設定の協力を得て、厨房設定の問題解決に向けて、厨房設定の戦いを挑む物語である。凄い人や事物・事象を出すのはいいのだが、その凄さが全て「描かれる」ではなく「説明される」なので、辛うじて邪気眼でこそない(さすがに軌道エレベーターも出て来るような作品に邪気眼はない)ものの、中二病っぽい印象はいや増すことになる。しかもキャラクターが例外なく味気無い。唐突かつ散発的に出て来る大袈裟な単語選択でカッコよさを出そうとしているが、個人的には寒いと感じた。SF的な考証も、科学・社会両面で粗雑かつ単細胞である。架空戦記好きであれば楽しめたかも知れないが、残念ながら私は無理であった。