不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

症例A/多島斗志之

症例A (角川文庫)

症例A (角川文庫)

 良心的な精神病院において、新規転入の精神科医が入院患者の治療しようとする物語。サイドでは、なぜか美術品偽造疑惑が進行する。
 多島斗志之の特徴である静かな文章が、《読者に腰を据えさせる》という点で極めて有効に機能している。また、精神医療をゆったり・じっくりと描出することにも、落ち着いた文章は似つかわしい。取材量にも単純に感心。プロット等も相変わらず完成度が高い。これは十全の傑作と呼んで差し支えないと思う。荒を探すとすれば、美術品云々の要素がなくても良かったことくらいか(足を引っ張ってもいないが)。
 今のところ手に入れやすいこともあり、広くお薦めしたい。