海賊モア船長の遍歴/多島斗志之
- 作者: 多島斗志之
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2001/03
- メディア: 文庫
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この時代に世界各国はどういう時代だったかというと、本編において登場するアウラングゼーブの他、ルイ14世、康煕帝、ピョートル1世、徳川綱吉辺りが在位中。黄昏が始まっていたとはいえムガール帝国は強勢であり、清に至っては全盛期、よって中印にはヨーロッパ諸国もまだ手が出せない状況。オスマン朝はハンガリーを失い退潮が本格化。アメリカはまだ独立してません。こんな感じ。
この時代背景において、インド洋で海賊を営むモア船長一味の活躍を、非常に生き生きと描いている。多島斗志之の特徴である静かな文体はいつも通りで、文章自体に熱気がないにもかかわらず、本作ではそのことをほとんど意識させず、結構ワクワクしながら読める。何故だろう? 以下は仮説だが、一部では苛烈な酷評の対象となっている、文の途中で頻繁に改行するスタイルの効果かもしれない。通常の小説ではあり得ない改行が、叙事詩的な独特のリズムを生み出し、読者に普通の小説と同じ読み方をさせないよう、無意識に働きかけてくるのではないか。文庫なのに二段組であることも、この効果を側面援護している。
襲撃方法や乗組員の過去等、創意工夫もなかなか魅せてくれる。傑作であることはほとんど間違いない。広くお薦めしたい一冊である。