不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ヘッドハンター/マイケル・スレイド

ヘッド・ハンター 上 (創元推理文庫)

ヘッド・ハンター 上 (創元推理文庫)

ヘッドハンター 下 (創元推理文庫)

ヘッドハンター 下 (創元推理文庫)

 マイケル・スレイドのデビュー作。『カットスロート』以前は未読だったが、『斬首人の復讐』が『ヘッドハンター』の事実上の続編(ネタも関連している)と聞き及び、準備も兼ねて読んでみた。
 スレイドの諸作を通底するテーマは、カナダ=北米のルーツ、よりはっきり言えば先住民/白人/黒人の衝突の歴史である。『ヘッドハンター』も例に漏れず、先住民族シャーマニズム、黒人のヴードゥーが登場し重要度の高いモチーフとなる。しかしこれ以外にも種々雑多な要素がぶち込まれ、「手数が多けりゃいいだろ」的なB級オーラが全編を覆っている。実に楽しい。しかも登場人物はそれぞれに事情を抱え、ベースの雰囲気は無駄に深刻。このギャップとクセの強さ、もう最高。とはいえ後年に比べれば全てにおいて気持ち大人しく、プロットの錯綜もこの作家にしてはよく抑えた方だろう。要するに、比較的整理された作品というわけで、作者の意図・目標もその分わかりやすい。スレイド入門には適している。
 というわけで、『髑髏島の惨劇』で、悪魔云々のペダントリー(しかも参考文献そのままっぽい)が延々と続く前半、やっと始まったはいいが都市伝説そのまんまの殺戮*1が吹き荒れる後半に、「なんじゃこりゃー」と悪印象を受けた人には、是非こちらで再入門してほしい。

*1:トイレとかな。