不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

愚か者死すべし/原りょう

愚か者死すべし

愚か者死すべし

 ハラリョウを漢字表記する場合、名前を「りょう」とすべきか「寮」等の当て字を用いるべきかいつも迷う。デビュー時、素人にこのような悩みを与える時代が来ようとは、作者も出版社も思っていなかったに違いない。ふと副次的に疑問が。今デビューする作家たちは、こういったことも考え合わせてペンネームを決めているのだろうか?

 非好意的な感想もちらほら目に付く『愚か者死すべし』だが、私はこれで十分満足した。年度ベスト(11月〜10月周期の年度)の際には、国内ベスト10入りを必ずや検討するだろう水準を保った作品と思う次第。確かにユーモアがかっており、事件の内容も非常にケレン味があって、《ハードボイルドはリアリティがあってナンボじゃ!》と信仰している人には受け入れがたい内容ではないかと思う。昔の原りょうと比べ、構成の緊密さが薄れているのもまた事実。話も軽くなった。だが作家の年齢を考え合わせると、この緩み方は、いい意味で歳をとった結果と思うのだ。都会の片隅で奏でられる、孤独な中高年のメルヘン。それでいいじゃないですか。