不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

ゼウスガーデン衰亡史/小林恭二

ゼウスガーデン衰亡史 (ハルキ文庫)

ゼウスガーデン衰亡史 (ハルキ文庫)

 『虚航船団』を読んだのは太古の昔、私が中学か高校の砌だったと思う。ミステリに大きく傾く前、その最後の時期に接した小説であり、大いに楽しんだ。特に第三部。で、『ゼウスガーデン衰亡史』は、筒井康隆をして『虚航船団』第二部を先取りされたと悔しがらせたらしい。筒井康隆は一つの惑星における鼬の歴史を描いたが、小林恭二は、二十世紀後半〜二十一世紀にかけて、日本のテーマパーク《ゼウスガーデン》の興亡を描く。このテーマパーク、魑魅魍魎のような人物ばかりで、妖しさ炸裂なのである(ついでに皆様、名前も奇矯)。ローマ帝国を明らかに祖形にし(双子の創始者、属州、元老院、第一人者、皇帝などなど)、随所に《権謀術数を読書する》旨みを埋め込む。
 素晴らしくいかがわしい小説で、ゼウスガーデンが風紀紊乱と頽廃になだれ込む様は、史書で一つの王朝の興亡を見届ける、まさにあの感覚を惹起する。文章も叙事的かつ皮肉が利いており、私は大いに楽しんだ。文学的な深読みはその筋の者に任せるとして、まずは小説世界に淫することを薦めたい。