不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

カレーライスは知っていた/愛川晶

カレーライスは知っていた (光文社文庫)

カレーライスは知っていた (光文社文庫)

 愛川晶を読むのは、さあ10年ぶりくらいになるだろうか。これほど間を空けると、どういう作家か忘れてしまう。余程強い印象を覚えていたら別だが、そういう作家は普通、10年も読まなくなるなんてあり得ないしね。

 あとがきで「これほど本格にこだわった短編集は、もう二度と書けないだろう」なんてことを書いている。解せない。私の印象では、『カレーライスは知っていた』は全編、非常に気軽に読めるライトな本格なのだが。
 愛川晶は、基本的にはアイデアでネタを構築するタイプだと思う。ロジック面での強固な裏付けは期待できない。人物描写も軽いものであり、深刻ぶったところはどこにもなく、さりとて文章の微細表現で襞を表現するわけでもない。普通の文章、普通の《楽しげな雰囲気》で、物語を進めてゆくだけだ。シンプルな水準作。にも関わらず、作者はこれを気負って書いたのだと言う。よくわからない。或いは私の《本格観》は間違っているのだろうか。

 話がそれたが、まあともかく、『カレーライスは知っていた』は、表題作に代表されるように、発想の起点とその結果がいまいちしっくり来ない。「カレーライスを食べれば全てがわかる」という思い付きが先に立ち、そこからネタを作ったのだと思うが、これって、カレー食っただけだと真相とかわかんないでしょ。謎が増えるだけで。心意気は買いますが、心意気だけでは二束三文なわけで、この程度で自足するのは勘弁して欲しい。

 誤解を避けるべく付言すると、結構楽しかったんですよ。作者は本気でロリコンなんじゃないかと邪推できたことも含めて。そんな感じです。筆を滑らした気がしないでもないが、まあいいでしょう。