不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

犯人に告ぐ/雫井脩介

犯人に告ぐ

犯人に告ぐ

 帯には横山秀夫福井晴敏伊坂幸太郎の名が見える。今をときめくミステリ系の作家を、上から三名持って来ましたという感じである。彼らの書き手としての能力はともかく、読み手としては、横山秀夫は頭の固い中年親父っぽいし(ていうかワーカホリックなんで自作以外に目が行ってなさそう)、福井晴敏の軍事関係とガンダム関係以外への見識は未知数だし、伊坂幸太郎はいい人ゆえ(ちょっと変な要素が入り込んでいたら)何でも誉めるようなイメージがある。よって信用するのはリスクが伴うのだが……。

 作者としては、各キャラをカッコよく設定しているつもりなのだろう。劇場型捜査といういい思い付きを、物語の中でうまく活かしているつもりなのだろう。刑事たちの捜査をリアルに描写し、子供を殺された遺族の哀しみと怒りを痛切に感じさせ、メディアの力と業を(正負両面から)遺憾なく見せ付け、犯罪者の精神を抉り出し、人々の様々な思惑が交錯する様を緻密に描き込み、史上空前の捜査を徹底的に描出したつもりなのだろう。また、事件に直接関係ない様々なエピソードは、物語に深みをもたらしたと思っているのだろう。
 その成否の判断は各読者に委ねたいと思う。下手なことを書いて訴えられるのもアレだし。