不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

山ん中の獅見朋成緒/舞城王太郎

山ん中の獅見朋成雄

山ん中の獅見朋成雄

 これで舞城は今年、三冊の著作を上梓したことになる。仕事しすぎなんじゃねーの、と思うのは、筆圧が減じているからだ。

 『山ん中の獅見朋成緒』からは、勢いが感じられない。痛切な思いも伝わってこない。無茶苦茶な物語であっても、主人公は強烈に真剣。それが舞城だったはずだ。だが、今回の主人公の場合、それは薄まっている。自我が弱いし、それに危機感や焦燥感を持っていない主人公。まさかとは思うが、「格調の高さ」と表現されるものを、舞城は狙ったのかもしれない。一方で、言動自体は例によってなかなか過激なので、アンバランス。

 いずれにせよ、初めてこの作家に不満を覚えた。残念。変貌なのか不調なのかよくわからないので、次作以降の展開を注視したい。