サイレントジョー
- 作者: T.ジェファーソンパーカー,T.Jefferson Parker,七搦理美子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2002/10
- メディア: 単行本
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主人公ジョーの造形は特にそうだ。
ジョーは私立探偵ではない。刑務所の看守だ。同時に、政治家である養父のボディーガードでもある。特徴的なのは、彼が幼時、実父に顔に硫酸をかけられた過去を持っている点だろう。その傷痕は二十四歳となった今でも残り、「恐ろしげ」という印象を人に与える。またその反動から、主人公は常に、礼儀正しい言動をとる(養父母や恋人に対してさえ、ですます調を使う辺り、訳者の目の付け所はいい)。そして、彼は養父にいつも、影のようにサイレントに付き添うのだ。
しかしそんなジョーの日常は、養父が目の前で射殺されることで、終わりを告げる。
養父を守るのが役目なのに、自分はそれを果たせなかった。そんな自責の念が、彼を独自の捜査に突き動かす……。
一読して最初に思ったこと。
不思議に浦賀和宏と印象がかぶった。特に『記憶の果て』とは、父と子というテーマがかぶるだけに、二重写しに見えて仕方なかった。
ジョーは成熟した一人の男ではない。
もちろん安藤と比べれば遥かに安定しているし、表層的にはクールな漢だと思ってしまいそうになるが、どこか奇妙に「青い」のだ。恋人の誘い方なんかその典型であろう。そしてその青二才っぷりを、本人も自覚し過ぎるくらい自覚している。たまにイタイことを考えているのも(一人称)、その印象をさらに深める。
とは言いつつ、主人公が自意識過剰という印象はまったくない。ジョーは非常に物静かである。自分のことを語る時さえ、非常に冷静である。ジョーがほとんどの登場人物に好かれている点も指摘しておくべきだろう。我は強くないが芯は強く、しかし人当たりは上々、でも幼さの残るパーソナリティ。それがこの作品の主人公なのだ。
もし浦賀が、あんなに早くデビューしなければ、こんな作家になっていたのではないか? あるいは、浦賀が将来ものすかもしれない、最高傑作はこんな感じでは? そう思わせる作品であった。
むろん、傑作である。大いに推奨する。