宇宙のランデヴー/アーサー・C・クラーク
- 作者: アーサー・C・クラーク,南山宏
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 1985/09
- メディア: 文庫
- 購入: 8人 クリック: 119回
- この商品を含むブログ (65件) を見る
ファースト・コンタクトものであり、基本的にはその難しさを描いた作品である。ただしスタニスワフ・レムとは違い、絶望的な相互理解不能性は全く強調されない。本書に横溢するのは、遂に異星文明の客を迎えたこと、そしてその文明の産物を探検することに対する、ノートンたちの昂ぶりである。彼らは欣喜雀躍してラーマに乗り込み、様々な驚異を目にする。もちろんファースト・コンタクトに対する恐れや不安は皆無ではない。そればかりか、本書には、ファースト・コンタクトに当たっての人間の愚行を直視したエピソード*1すら含まれており、楽観論一辺倒では決してない。だがこれらの懐疑以上に、知的で健康的な好奇心が探検隊員を支配し、ひいては物語のベクトルを決定付けている。
少年少女の純真さはしばしば、薄汚れた大人の胸を打ち、襟を正させる。これと同様に、クラークの世界に対する楽観性にはハッとさせられる。たとえば『宇宙のランデヴー』のラストである。恐らくレムであれば、ここにはありったけの絶望を込めたはずである。だがクラークは、レムが書いてもおかしくない顛末を描きながらも、希望を失わない。そこに凄みを感じるのは私だけだろうか。
『宇宙のランデヴー』は巨大構造体の壮大な光景に圧倒されつつ、知性と理性へのクラークの信頼を味わえる作品である。SFに慣れていない人には、展開が竜頭蛇尾だと思われる可能性は残るものの、クラーク・ファンが必読であることは間違いない。おすすめしておきたい。
*1:水星人の件です。