不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

幸運は誰に?/カール・ハイアセン

幸運は誰に?〈上〉 (扶桑社ミステリー)

幸運は誰に?〈上〉 (扶桑社ミステリー)

幸運は誰に?〈下〉 (扶桑社ミステリー)

幸運は誰に?〈下〉 (扶桑社ミステリー)

 美人だが男運に恵まれない黒人女性ジョレイン・ラックスは、しかし、これまでの人生で男を捨てた年齢を列挙することで、ロト6で2800万ドルの賞金を当てる。しかし当たりくじはもう一本あった。これを当てたのは、アメリカ及び白人は有色人種やユダヤ人から陰謀にまみれた攻撃を受けていると信じる、知能指数が致命的に足りないバカ二人組。彼らはジョレインの賞金まで自分たちのものにしようと来襲。そこに、大当たりを知った新聞記者トム・クローム(裁判官の妻と不適切な関係にある)、涙を流す聖母像をでっち上げて儲けている奴ら、近所の森林を買い占めようとする悪徳業者、果てはジョレインが飼う亀が絡み、てんやわんやの大騒動に……。
 基本的に、ドラマが展開されるのは、以上で述べた粗筋の延長線上に限られる。意外な事実が出て来たり、これ以上にスケールが急拡大するといったことはない。寓意や風刺性もほとんど感じられず、エンターテインメントに徹しているのだが、ページを割いて各キャラをしっかり作り込んでいる。『幸福は誰に?』の登場人物は、色々無茶をやる一方で、笑劇におけるありがちな人物造形には当てはまらず、それなりの迫真性(バカだけど)を獲得している。この裏付となるのが、先述のキャラの作り込みであり、この作品に安定性をもたらしている最大のファクターと思料される。プロットが堅実(ただし一本にはまとまらない)であることもあり、読者は、血の通ったバカキャラが繰り広げるドラマをただ楽しめば良いだけなのだ。つまり、こんなに無茶でおバカな話であるにもかかわらず、終始安心して読める。バカをやるのも堅牢に、ということか。最後に、喜国雅彦画伯のカバーイラストを称揚しておきたい。上下巻にわたり、主要キャスト揃い踏み。実に素晴らしい。
 そんなこんなで、バカ話が大好きな人には強くお薦め。