不壊の槍は折られましたが、何か?

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ミヒャエル・ギーレン/南西ドイツ放送交響楽団 シューベルト:交響曲第9番ハ長調《グレイト》

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 1996年4月27日、ロンドンのロイヤル・フェスティバル・ホールでのライブ録音。ということは演奏旅行中の一コマということになる。
 オーケストラの音が非常にざらざらしているのが第一の特徴だ。美感にかまけることのない朴訥とした音色であり、これを使って遠慮会釈なく楽想に突っ込んでいく演奏である。メロディーは、その美しさというよりも、音の連なりとしてのドラマトゥルギーを重視しているように聞こえる。フレーズ処理も、どうも旋律線を短めに捉えているようで、呼吸が浅い。第一楽章と第二楽章では、テンポの激しい加減速が追加されている時や、強いレガートがかけられる時があって、随所でギョッとさせられる。第一楽章で一番面白かったのは、序奏部主題のコーダでの回帰部分だ。元々かなり速めのテンポ設定で序奏を突っ切っていた上に、この回帰部で、テンポを落とすどころか逆に加速をかけており、大変パッショネートな表情をこの楽章のコーダに付与する。第二楽章でも、基本テンポをかなり速めに設定した上で、楽想によってテンポを大きく動かしており、他の演奏では見たこともないような雰囲気を引き出している。続く第三楽章と第四楽章は、テンポの動きが落ち着いたが、荒々しい音色でざくざくガツガツ演奏するのは同じで、録音で聴く分には前半楽章に比べて特徴が弱くなった気はするものの、テンションは高めに維持されており、演奏終了後は客席からブラボーが飛んでいるのが聞き取れる。
 というわけで、結構面白く聴けるのだが、個人的にはこの演奏は好まない。テンションは高めだが、粗い音でザクザク土を勢いよく掘り返すように演奏されているので、私の耳にはどうも粗暴に聞こえるのである。加えて、情感面に配慮していない。「旋律を奏でておけば自然に雰囲気が出るはずだ」といった楽譜に対する信頼感から敢えて何もしない、といった風ではなく、ただ単に本当に興味がなさそうなのである。うーん……。
 カップリングは、ヨハン・シュトラウス二世のワルツ《春の声》である。こちらはかなり面白い演奏で、ワルツを壊さない範囲でアーティキュレーションに工夫を凝らし、ギーレンにしてはロマンティックな表情付けと、ドラマティックな展開で、一気に聴かせる。こういうノリで《グレイト》を録音してくれたらよかったんだけどなあ。こちらは1998年9月4日、フライブルクのコンツェルトハウスで録音されているので、ひょっとすると会場の響きの問題かもしれませんが。