不壊の槍は折られましたが、何か?

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チャールズ・マッケラス/スコットランド室内管弦楽団 シューベルト:交響曲第9番ハ長調《グレイト》

 1998年3月10日〜12日、ダンディーのケアード・ホールにおけるセッション録音。
 まるで古楽器を用いた演奏であるかのように、ビブラートが非常に薄い。弦の人数が少なめなこともあって(室内管弦楽団ですしね)、ハーモニーはざくざくしている。ただしそれがショッキングな響きを生んでおらず、ノリントンのピュア・トーンのような輝きも生んでおらず、サウンドがあくまでシックにまとまっているのが特色だ。マッケラスはこの音を用いて、速めのテンポ設定でさくさくと要領よく演奏を進めていく。熱気はさほどなく、活きは良いし愉悦感に満ちているし音はビタビタ合っているものの、聴き手の精神状態を高ぶらせはしない(あるいは逆に鬱に引きずり込んだりもしない)演奏である。代わりにニコニコ聴いていられるわけだ。もちろん、第二楽章を筆頭に、適度な憂いは付与した上での話である。あと、ここぞというところでアクセントを上手く使い、おっと耳をそばだてさせられる。ド迫力で聴き手を圧倒するというよりは、ここで局面が変わりますよ的な注意喚起に近いように思います。
 スケールの点では「小さい」と言わざるを得ない演奏だが、箱庭のようで結構可愛いし、曲やオーケストラ・サウンドの魅力に感じ入るのも確かである。「普通にいい演奏」というのはこういうのを指すのだと思う。
 カップリングの《未完成》も同傾向の演奏。メロディー・ラインの特色がより強い曲である分、「小ささ」はさらに目立っていると感じますが、必要十分なことはしっかりやっています。普通にいい音楽だと思う。