不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

酔いどれ探偵街を行く/カート・キャノン

酔いどれ探偵街を行く (ハヤカワ・ミステリ文庫)

酔いどれ探偵街を行く (ハヤカワ・ミステリ文庫)

 妻の密通を知ったカート・キャノンは、妻と間男を殴り殺そうとし、私立探偵のライセンスを取り上げられてしまう。そして酒に溺れルンペン同様の生活を送るカート。しかしそんな彼にも、NYの裏町に住む悩みを抱えた人々は、探偵仕事を依頼しに来るのだった……。都筑道夫訳。

その酒場はさびれた通りで、よく見かける、灯りの暗い共同便所そっくりだった。

 都筑節炸裂。最初の一文から、読点の打ち方が生理的にダメ。しかし読み進めると、酒・女・暴力で荒々しく迫る落魄した私立探偵の物語としては、けっこう様になってくる。よってここでは敢えて問責しない。都筑攻撃はただでさえ神経を使うしね……。
 物語の内容は、かなり他愛ないもの。全8編、一応サプライズはある。しかし手が込んでいるわけではない。また、女は唇奪われただけで例外なく抵抗をやめ、男の登場人物は言動がやたら粗暴。キングの『スタンド・バイ・ミー』等、アメリカ人作家が回顧的に少年ものを書く際、タフガイ小説を読んで主人公に憧れるガキ(でも言動が余りにもアレな感じの奴)がよく出て来るが、なるほど、年少期にこういうのに憧れたら、馬鹿にしかなれまい。
 とはいえ、先述のように、落ちぶれ果て、それでもなおタフに生き、情にも篤いキャラ造形がなかなか印象的なのも間違いない。訳文も(読点が多過ぎるとはいえ)この手の話の限りにおいては、なかなか素晴らしいものだと思う。一読をお薦めしておきたい。