不壊の槍は折られましたが、何か?

ミステリ書評家のブログのはずだが……。

マザーズ・タワー/吉田親司

マザーズ・タワー (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)

マザーズ・タワー (ハヤカワSFシリーズ―Jコレクション)

 2038年、スリランカとインドを結ぶ巨橋を拠点とする《マザーズ教団》は、その拠点において難病の子どもたちの末期を看取る事業を展開していた。しかし教団代表の葵飛巫子はこの拠点が襲撃されることを察知し、巨橋を崩壊させてしまう。巨橋崩壊当日に現場に居合わせた4人の男は、飛巫子の目的と人類が直面する危機を知り、テロにも負けず、各国政府の横槍にも負けず、軌道エレベータの建造実現に向けて動き始めた。
 厨房設定の強者たちが、厨房設定の協力を得て、厨房設定の問題解決に向けて、厨房設定の戦いを挑む物語である。凄い人や事物・事象を出すのはいいのだが、その凄さが全て「描かれる」ではなく「説明される」なので、辛うじて邪気眼でこそない(さすがに軌道エレベーターも出て来るような作品に邪気眼はない)ものの、中二病っぽい印象はいや増すことになる。しかもキャラクターが例外なく味気無い。唐突かつ散発的に出て来る大袈裟な単語選択でカッコよさを出そうとしているが、個人的には寒いと感じた。SF的な考証も、科学・社会両面で粗雑かつ単細胞である。架空戦記好きであれば楽しめたかも知れないが、残念ながら私は無理であった。

ディスコ探偵水曜日/舞城王太郎

ディスコ探偵水曜日〈上〉

ディスコ探偵水曜日〈上〉

ディスコ探偵水曜日〈下〉

ディスコ探偵水曜日〈下〉

 東京在住で、迷子捜しを主に請け負う米国人探偵のディスコ・ウェンズデイは、事件を通して引き取った梢という6歳の少女と一緒に暮らしている。だがこの幼女の中に、17歳の梢やその他諸々の少女の人格が入って来るようになった。鍵を握るのが、毎日のように名探偵が殺される福井県の館・パインハウスであることを知ったディスコは、仲間と共にそこに向かうが。
 今回は大長編だが、やっていることはいつもと一緒である。ストーリーもキャラクターも世界設定もはっちゃけており、性と暴力、切実な感情や感傷が最後まで渦巻いている。要するにいつもの舞城節炸裂であり、ファンなら従前に楽しめるが、この作家に全くシンパシーを覚えない向きには苦痛かも知れない。しつこいようだが今回は長いしなあ。あと『九十九十九』は読んでおいた方が良いだろう。
 ジャンル小説としては、まずミステリ方面からアプローチすると、見立てに次ぐ見立てと多重推理というこの作家の常套手段だし、今回に関してはあまりにもしつこい。ページ数が無駄に倍増する結果をもたらしており、手放しには賞賛できないのである。しかし「多重推理」がSF要素にしなやかに繋がるのが面白い。そのSF要素は『ディスコ探偵水曜日』という小説の核心を為すが、饒舌過ぎる語り口で物語を驀進させることにばかり作者は気を取られており、整合性を軽視している(暗合は重視している)ため、SFとしては破綻気味である。しかし、これでこそ舞城という気も強くするのだ。
 というわけで、良くも悪くも舞城王太郎らしい、現時点での集大成といえよう。ファンは必読。